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基幹系ネットワークプリンティング

基幹系ネットワークプリンタ概略説明

VSP(バーチャルシステムプリンタ)は,メインフレームからパソコンまでの異なるプラットフォームからの印刷要求を1台で処理可能としたネットワークプリンタである。
VSPは複数の仮想印刷機構をプリンタ装置に組み込むことによってマルチプラットフォームでの分散印刷を可能とした。
本稿ではVSPで実現したマルチプラットフォーム対応技術概要について説明する。

 バーチャルシステムプリンタ(Virtual System Printer:VSP)という名称で初代VSPがプリンタ市場に登場したのが,1995年である。
 VSPとは,文字どおり,マルチプラットフォーム環境において仮想的なプリンタ機構をつくり出し,あたかも物理的に複数台のプリンタ装置が存在しているかのように複数システムへ分散印刷を提供できるネットワークプリンタをいう。メンフレームで作成した帳票からパソコンで作成したワープロ文書まで,既存の文字やオーバレイなどのユーザ資源を変換することなくマルチプリントが可能である。現実に1台のプリンタ装置でメインフレームを含めたマルチプラットフォームと連携できれば,分散処理システムの構築が容易となる。 
VSPの技術ポイントは,「マルチセッション機能」と「マルチプロトコル機能」および「マルチエミュレーション機能」をそれぞれ組み込んだ「論理プリンタ機構」にあり,この機構が後のネットワークプリンタのマルチプラットフォーム対応技術の基盤となっている。また,「VSP印刷管理機能」もネットワークプリンタ共通の印刷管理技術として重要要素になっている。

●VSP初期(1995年代)
VSPが誕生したのが,ビッグバン構想の前年度で,その当時オープンシステム化の流れに伴い,オープンシステム同士の分散印刷は可能となったが,メインフレームを含めた印刷環境の分散化は困難な状況にあった。このため,メインフレームで築き上げた膨大な帳票データを各システムで共用できず,資源の二重管理を行っていた企業も多かったが,バブル時の余韻がこうした無駄な投資を覆い隠していたようだ。
 この流れの中で,混在したシステム(マルチプラットフォーム)環境に対応できるネットワークプリンタが必要となった。
 マルチプラットフォーム環境でプリンタ装置を共用するには,つぎの課題を解決する必要があった。
(1)複数の印刷依頼を並列処理できること。
(2)異なる通信プロトコルのデータ通信が行えること。
(3)各プラットフォームのユーザ資源がそのまま使えること。
(4)上記三つの課題を1台のプリンタ装置で解決できること。
 
● マルチセッション・マルチプロトコル機能
 従来,1台のプリンタで複数のシステムから印刷依頼を受けた場合,依頼された順番(ジョブ単位)で印刷処理をしていたため,大量印刷時には他の印刷ができず問題となっていた。マルチセッション機能はこの問題を解決した。
 3台の異なるシステムがそれぞれIPX/SPX,TCP/IP,XLINKの通信プロトコルでプリンタとデータ通信をしているとする。
 Aシステムからの印刷データは,A1からA8までの八つのパケット形式に分割され送出される。B,Cシステムも同様に,B1からB8まで,C1からC7までのパケット形式に分割され送出される。LAN上では1パケット単位で送出され,各システムからの印刷データは混在してプリンタへ送られる。
 プリンタ内部は,各システムの通信プロトコルを個別に処理する仮想LANボードと受信バッファから構成され,各システムに対応した仮想インタフェースをとっている。各システムとこの仮想LANボードとの間でそれぞれの通信パス(セッション)が確立され,パケットの伝送路が確保される仕組みになっている。
 まず,受信したパケットはプロトコル解析部で通信プロトコルの種類が判別され,それぞれの通信プロトコルに対応した仮想LANボードとの通信パスが確立される。同時に,通信パスに対応した受信バッファも確保される。判別されたパケットは通信プロトコルごとに仮想LANボードに振り分けられる。仮想LANボードでは,それぞれの通信プロトコルに従った処理を行った後,パケット内の印刷データを受信バッファへ格納する。受信バッファ@にはAシステムの印刷データが格納され,受信バッファA,Bも同様にB,Cシステムの印刷データが格納される。
このようにして,各通信プロトコルに対応した通信パスを経由してデータを獲得することで,マルチプロトコル機能を実現した。また,受信バッファ@からBに印刷データを順次格納し,1頁分のデータがそろったものから印刷処理へ渡すことで,頁単位の印刷制御が可能となりマルチセッション機能を実現した。

● マルチエミュレーション機能
 各プラットフォームの専用プリンタと同じ出力結果を得るためには,それぞれのプラットフォームに存在するプリンタエミュレーションをサポートし,文字やオーバレイなどのユーザ資源を変換することなく,そのまま使用できる仕組みが必要である。
 VSPでは,1台のプリンタがジョブ単位にエミュレーション状態を遷移していくのではなく,マルチプロトコル機能と同様に,各通信パスに対応した仮想エミュレーション部を設け,それぞれ独立して機能させることで複数のエミュレーション状態を生成し,マルチエミュレーションを実現している。
● 論理プリンタ機構
 これまで,マルチセッション機能とマルチプロトコル機能およびマルチエミュレーション機能について述べてきたが,これらの機能はVSPを実現する上で重要な構成要素であり,これらを論理プリンタ機構で統合することによってマルチプラットフォーム対応のプリンタを実現した。
 これまでのマルチセッション機能,マルチプロトコル機能,マルチエミュレーション機能を組み込んで,三つの仮想印刷機構を構成しているとする。仮想印刷機構1は,通信プロトコルをIPX/SPX,プリンタエミュレーションをaエミュレーションに設定している。仮想印刷機構2は,通信プロトコルをTCP/IP,プリンタエミュレーションをbに設定している。仮想印刷機構3は,通信プロトコルをDSLINK,プリンタエミュレーションをcに設定している。マルチビンスタッカ(注6)は,仮想印刷機構ごとに用紙出力先(ビン)が割り当てられている。
 仮想印刷機構1から3は,設定された通信プロトコルによって,印刷データを仮想LANボード経由でデータ受信バッファへ送る。データ受信バッファに1頁分のデータがそろうと,そのデータはプリンタエミュレーション部へ渡され処理される。データ処理が完了すると印刷部に対し印刷依頼を行い,仮想印刷機構ごとに設定されているマルチビンスタッカへ印刷出力される。
このように,三つの仮想印刷機構はLAN上では,それぞれ独立したプリンタ装置として機能していることが分かる。つまり,各プラットフォームからは仮想印刷機構1はIPX/SPXで通信するFMプリンタ装置として見え,また,仮想印刷機構2はTCP/IPで通信するESC/Pプリンタ装置として,仮想印刷機構3はXLINKで通信するJEFプリンタ装置として見えている。これらの仮想印刷機構を並列に動作させることで,論理的に複数のプリンタ装置を実現できる。この仕組みを論理プリンタ機構として実際のプリンタ装置に搭載することで,マルチプラットフォーム環境での分散印刷を可能にした。VSPに搭載した論理プリンタ機構はこれを拡張して,最大8台の論理プリンタ装置を構成できる。
 
●印刷管理機能
 マルチプラットフォーム環境をホスト,サーバ,パコソンの三層システムで考えた場合,従来のホスト専用プリンタが提供していた高度な印刷管理機能をこの階層システム間で相互利用できなければならない。パソコンからでもホストに匹敵する印刷管理を実現したのが印刷管理機能である。
 クライアント,サーバ(プリンタ管理サーバ)およびプリンタからなる基本システム構成例を考える。クライアント,サーバには印刷管理ソフトを組み込んでおり,クライアントおよびサーバはプリンタ情報(トラブル内容,印刷ページ情報など)を要求することによって,プリンタからプリンタ情報を獲得できる仕組みになっている。
 クライアントから印刷指示がかかるとまず,クライアント,サーバおよびプリンタ間の印刷セッションが確立される。印刷中に何らかのトラブルが発生し印刷が停止すると,送出した印刷データに対してプリンタからプリンタ情報が返される。サーバは獲得したトラブル内容のコードを解析し,エラー内容を確定する。そのエラーコードをクライアントへ通知し,印刷要求したオペレータへ印刷異常であることを伝える。同時に,サーバにはエラーコードに対応したエラー解除手順のメッセージが表示される。オペレータは印刷異常であることに気づき,サーバに表示されたエラー解除手順に従い,トラブルか所の対処を容易に行える。この間,サーバはプリンタの状態を監視することで,エラー復旧状態の自動検出を可能としている。また,異常ページの算出,再開ページの通知およびエラー内容に応じた初期化処理とデータ再送処理を実行することで,印刷の自動復旧を可能としている。このほかに,プリンタ間の相互バックアップ機能も実現している。突然のプリンタ故障などリカバリ不可能に陥ってしまった場合でも他方のプリンタへ印刷処理を切り替えて,印刷を継続することができる。
 このように,クライアント,サーバおよびプリンタ間におけるデータ処理を完全に同期させることによって,万が一印刷トラブルが発生しても異常か所の特定およびそのデータ保証を行えるため,ページ抜けや重複印刷を回避できる。

参考文献
(1) 志度:複数ハード対応のプリンタが登場 分散プリント環境の構築が容易に. 
日経コンピュータ,373,pp.107-109 (1995